仮装しなくなった大人たちへ。ハロウィーンの夜は、日本酒と秋の味覚を

10月31日。

仕事を終えて駅へ向かうと、街にはオレンジ色のカボチャや、おばけの飾りが並んでいる。電車の中では、仮装をした若者たちが楽しそうに話している。そんな姿を横目に見ながら、「そういえば、最後に仮装したのはいつだっただろう」とふと思った。

学生の頃は、ハロウィーンが来ると少しワクワクした。お菓子をもらったり、友達と仮装したり。普段とは違うことが許されるような、特別な一日だったような気がする。

しかし、大人になってからは、10月31日も単なる日常の一コマに変わった。

仕事が終われば家に帰り、夕食を食べて、いつものように晩酌をする。

「今年もハロウィーンらしいこと、何もしなかったな」

そんなことを考えながら、帰り道のスーパーに立ち寄った。

目次

いつものスーパーで、少しだけ秋を探す

店内に入ると、ハロウィーン仕様のお菓子が並んでいる。

その隣には、カボチャ、キノコ、秋鮭、サツマイモ……。

そこでふと、「家で一人でもハロウィーン気分を楽しめるんじゃないか」と思った。

カボチャを買って、少しだけ料理をする。

そして、いつもよりちょっと良い日本酒を一本選ぶ。

それだけなら、特別な準備も必要ない。

今夜はカボチャを使ったグラタンと、キノコのソテー。それから、冷蔵庫にあったチーズも皿に並べることにした。

日本酒は、食事に合わせやすそうな純米酒を選んだ。

グラスに注ぐと、穏やかな米の香りが立ち上がる。

「さて、合うかな」

日本酒を好きになるにつれて、出来上がった料理を前にしたとき、ついこんなことを考えてしまう。

カボチャの甘味に、日本酒の旨味を合わせる

まずはカボチャのグラタンを一口。

カボチャの甘味と、チーズのコクが口の中に広がる。

そこへ日本酒を合わせてみると、思っていたよりもマッチすることに驚いた。

カボチャの甘味に、純米酒らしい米の旨味が重なることで、味わいに厚みが出る。

日本酒には、アミノ酸などに由来する旨味が含まれている。旨味は料理との相性を考えるうえで重要な要素だ。

ただ、「甘い料理には甘い日本酒」という単純な話ではない。

日本酒の味わいは、日本酒度だけでは決まらない。

糖分による甘味だけでなく、酸味、アルコール、香り、旨味など、さまざまな要素が組み合わさって、人は「甘い」「辛い」「軽い」「濃い」と感じている。

だから、料理との相性を見るときには、スペックだけで判断するのではなく、実際に口にしたときのバランスを見ることが大切だ。

もう一口、カボチャを食べる。

そして日本酒を飲む。

今度は、さっきよりもカボチャの甘味がまろやかに感じられた。

秋の食卓には、燗酒も似合う

秋も深まり、気温もグッと冷え込む時期。少し日本酒の温度を変えてみたくなった。

残っていた酒を少しだけ徳利に移し、ぬる燗にする。温度が上がると、先ほどまで感じていた香りとは違う表情が出てくる。口に含むと、甘味や旨味がふくらみ、先ほどの冷たい状態よりも丸みを感じる。

秋の夜に燗酒。それだけで、少し季節を感じる。

日本酒は温度によって味わいが変化する。冷酒では爽やかに感じていた酒が、温度を上げることで旨味が広がることもある。

特に秋から冬にかけては、料理も味わいのしっかりしたものが増えていく。キノコ、根菜、魚、肉をメインにした料理に、燗酒を合わせてみるのも日本酒の楽しみ方の一つだ。

食後には、少し意外な組み合わせを

食事が終わると、ハロウィーンのお菓子として買ったチョコレートが余っていることを思い出した。

「チョコレートを日本酒に合わせたらどうなるんだろう」

ほろ苦く、甘いチョコレートとの相性を考えた末、甘みと酸味が特徴の貴醸酒を取り出した。

貴醸酒は、仕込み水の一部に日本酒を使う贅沢なジャンルであり、厚みのある濃厚な甘みが特徴だ。

貴醸酒の甘さを楽しんでいるところに、チョコレートを一欠片。そしてもう一度、貴醸酒を飲む。

カカオの苦味と貴醸酒の甘味が重なり、先ほどとは違った表情を見せる。日本酒というと、「刺身や焼き魚と合わせるもの」というイメージが強いかもしれない。もちろん、それも日本酒の大きな魅力だ。でも、日本酒の世界はそれだけではない。

チーズにも、肉料理にも、チョコレートにも合わせられる。前菜、メインディッシュ、そしてデザートにまで合わせられる上に、料理の国籍を問わない懐の深さも、日本酒が持つ魅力の一つだろう。

大切なのは、「日本酒だから和食」と決めつけるのではなく、酒と料理それぞれの味わいを見てみることだ。

ハロウィーンを感じる味覚と日本酒を

気が付けば、時計はもう夜遅くなっていた。

窓の外を見る。街ではまだ、仮装をした人たちが歩いている。

子どもの頃とは、ずいぶん違うハロウィーンになった。

あの頃のように仮装をすることもない。お菓子をもらいに行くこともない。でも、季節のイベントを楽しむ方法は、それだけではないのだと思う。

カボチャを買って、秋の料理を作る。

いつもより少し良い日本酒を選ぶ。

冷酒と燗酒で味わいを比べてみる。

食後にはチョコレートと貴醸酒を合わせてみる。

そんな小さなことでも、いつもの夜とは少し違う時間になる。

大人になると、イベントそのものを楽しむ機会は少なくなる。だからこそ、自分で「楽しむ理由」を作ってみるのも悪くない。

10月31日。

仮装をしなくなった大人たちにも、ハロウィーンはやってくる。今年は街へ繰り出す代わりに、家で日本酒を一本開けてみてはいかがだろうか。

秋の味覚をつまみながら、ゆっくりとグラスを傾ける。子どもの頃とは違うけれど、大人になった今だからこそ楽しめるハロウィーンが、そこにはあるかもしれない。

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この記事を書いた人

滋賀県出身・京都市在住/唎酒師・焼酎唎酒師・酒匠・日本酒学講師

酒類への関心が高じ、大学卒業後は京都市内の酒販店に勤務。その後、食品メーカーでの営業職を経て、フリーライター・お酒の講師として独立。お酒を単なる「飲み物」としてだけでなく、「文化」として次世代へつないでいくことをテーマに取材・執筆・イベント活動を行っている。

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