
七月の蒸し暑い湿った夜。梅雨は明けたってのにあいかわらずの湿気だ。
昼間の熱気がアスファルトに残り続ける帰り道で、浴衣姿の学生たちが笑いながらすれ違っていく。
駅前には七夕の笹が飾られ色とりどりの短冊が風に揺れている。
“第一志望合格” “推しに会えますように” “健康第一”
そういえば大人になってからは、“願う”という行為そのものを少しずつしなくなった気がする。
エアコンの効いた居酒屋に入る。
仕事帰りらしい人たちの声と、グラスのぶつかる音。
カウンターの端に座ると、店員が『夏酒、入ってますよ』と写真入りのメニューを差し出してきた。
清廉な濃緑の瓶にラベルには賑やかな夏野菜たちが所せましと描かれている。
【大山 夏野菜ラベル 特別純米生酒】
派手ではないけど、どこか夏休みみたいな空気を感じた。
「へーおもしろいラベルですね。これにしてみます。」
蒼い透き通った切子グラスに注がれた酒を一口吞む。
驚くほど軽やかでさわやかだけど、しっかりと米の旨味も感じる。それになんだかお酒から野菜を感じるのは気のせいじゃないはず。
「美味しい・・・」
思わずもれた言葉に店主は少し笑って
「夏野菜とあわせる人が多いんですよ。今日は枝豆の呉汁があるんですけどいかがですか?」
勧められるままに注文する。枝豆の洗練された青々とした風味に呉汁の濃厚さが心地いい。お酒を一口飲むと爽やかだけどお酒のしっかりとした風味や旨味が枝豆の風味と相性が良い。
「もう夏か…」
ふと数年前の七夕を思い出す。
“めっちゃ星がきれいだよー”
たった1行だけ、そこで文章は終わっていた。
……と思った。
スクロールしていくと、長い空白のそのずっと下にもう一行だけ。
“一緒に見たかった”
付き合っていたわけじゃない。
七夕の日に約束していたはずだけど急な用事で会えなくなって。それが原因ってわけじゃないけど距離があいてしまって自然と会わなくなった。
・・・毎年なぜか七夕の日だけは思い出してしまう。
窓の外を見ると曇り空だった。きっと今年も、星は見えない。
それでも、会いたい人を思い出す夜があるなら、七夕って悪くないのかもしれない。
そう思ってから、会いたいと思っている自分に少し驚く。
グラスに残った日本酒を飲み干す。冷たかったはずなのに、少しだけ胸の奥が熱くなった。
七月の夜にだけ結ばれるふたつの星影は、この曇り空の上でどうか会えているといいのに。

【大山 特別純米酒 夏野菜ラベル】
トマトやきゅうり、ナス、とうもろこし、枝豆といった
夏野菜が描かれたラベルは見てるだけで爽やかで季節感を感じる一本
夏野菜の料理と相性のが良く夏の食中酒に最適
「加藤嘉八郎酒造」
山形県鶴岡市大山三丁目1-38
